応唱聖歌は、昇階曲(グラドゥアーレ)、 詠唱(トラクトゥス)、アレルヤ唱、奉献唱(オッフェルトリウム)や、聖務日課の応唱などに用いられ、元来は独唱による詩篇詩句の歌唱と、合唱による「応答句」が交互に歌われる。レスポンソリウムはしばしば、先行作品からさまざまな音型を転用、合成して作成され、この過程をセントニゼイションと呼んでいる。トラクトゥスでは応答句が失われているが、セントニゼイションの痕跡は強く残っている。
グレゴリオ聖歌は、ローマ典礼のもとめる様々な機能を満たすために発展した。おおまかに言うと、典礼文のレチタティーヴォは、助祭や司祭による典礼文の詠誦に用いられた。交唱は、司祭の入場や、献金の回収、聖別されたパンとぶどう酒の拝領など、典礼中の行動の時に用いられた。そして応唱は、聖書朗読や、日課に用いられた[27]。
詩篇に基づかない、ミサ通常文の歌唱やセクエンツィア(続唱)、賛美歌などは、元来は会衆の歌のために用いられた[28]。これらの聖歌では、音楽の形式はおもにテキストの構造に依存している。セクエンツィアでは、対句ごとに同じ音型が用いられるし、賛美歌ではテキストが有節形式であることから、連ごとに同じシラブル様式の旋律が現れる。
初期の聖歌は、西洋音楽の大部分と同様に、全音階の使用を特徴としたと考えられている。旋法理論は主要な聖歌の作曲よりも後に成立し、出自をまったくことにする2つの伝統を融合させたものである。すなわち、古代ギリシアの伝統を受け継ぐ、純理論的な数値比率理論と、伝統的に培われてきたカントゥスの実践技法である。理論と実践の双方を扱った最初期の著作としては、9世紀に成立したムジカ・エンキリアディス(音楽便覧)およびスコリカ・エンキリアディス(前者の注釈書)の論文群がある。これらは9世紀に流布したものの、より古い、口頭伝承に由来する可能性が高い。エンキリアディスの論文群では、古代ギリシアの音楽理論と類似するテトラコルドを用い、ニ、ホ、ヘ、トの4音を終止音(フィナリス)とする18音の音階を使用しているものの、古代ギリシアの理論とは異なる点がいろいろとある。中でも、各テトラコルドの間がすべて重ならず(ト-イ^変ロ-ハ・ニ-ホ^ヘ-ト・イ-ロ^ハ-ニ・ホ-嬰ヘ^ト-イ・ロ-嬰ハ)、このためにオクターブや完全四度が崩れる点が出てくる(ヘと嬰ヘや、変ロとホなど)点は、中世の基準的な音階と合致せず、長い間音楽学者の疑問となっている。その後、フクバルドゥスによって、フィナリスのテトラコルド(ニ、ホ、ヘ、ト)を応用し、これをギリシアの大・小完全音程理論に基づいて補完し、ロ・変ロが可変の全音階が初めて記述された。これらの試みは、聖歌の実践に適応した音楽理論構築の最初の段階とみなされる。
1025年頃、グイード・ダレッツォは「ガンマウト」を発展させることで西洋音楽に革命をもたらした。ガンマウトでは、聖歌に用いられるピッチ(音高)は音域の重なるヘクサコルドに組織される。ヘクサコルドの基音としては、ハ音(ナチュラル・ヘクサコルド、ハ-ニ-ホ^ヘ-ト-イ)、ヘ音(変ロを使う、軟ヘクサコルド、ヘ-ト-イ^変ロ-ハ-ニ)、またはト音(ロを使う、硬ヘクサコルド、ト-イ-ロ^ハ-ニ-ホ)がある。変ロは臨時記号ではなく、ヘクサコルドの体系の必須要素とされている、一方、ヘクサコルドに含まれない音の使用はムジカ・フィクタとされた。
グレゴリオ聖歌は、ビザンティン聖歌の8分類八調(オクトエコス)の影響を受けて、8つの旋法に分類された[29]。各旋法は終止音(フィナリス)、支配音(ドミナント)および音域(アンビトゥス)が決まっている。フィナリスは曲の最後の音で、通常は旋律全体を通じて重要な音となる。ドミナントは、通常旋律の中で朗誦音として用いられるピッチである。アンビトゥスは旋律で用いられるピッチの範囲を示す。フィナリスがアンビトゥスの中央にある、もしくはごく限られたアンビトゥスしかもたない旋律は「変格旋法」に分類され、フィナリスがアンビトゥスの最低音であり、かつ5つか6つ以上の高さの音を音域にもつ旋律は「正格旋法」に分類される。互いに対応する変格と正格旋法は、フィナリスは同じであるが、ドミナントは異なる[30]。旋法の名前は、古代ギリシャの旋法の誤解に基づくもので、中世には実際に使われることは稀であった。「ヒポ」の接頭辞は、変格旋法であることを示している。
第1、第2旋法は、ニ音をフィナリスとする正格および変格旋法で、時にドリア旋法、ヒポドリア旋法と呼ばれる
第3、第4旋法は、ホ音をフィナリスとする正格および変格旋法で、時にフリギア旋法、ヒポフリギア旋法と呼ばれる
第5、第6旋法は、ヘ音をフィナリスとする正格および変格旋法で、時にリディア旋法、ヒポリディア旋法と呼ばれる
第7、第8旋法は、ト音をフィナリスとする正格および変格旋法で、時にミクソリディア旋法、ヒポミクソリディア旋法と呼ばれる
イ、ロ、ハ音で終わる旋法を、時にエオリア旋法、ロクリア旋法、イオニア旋法と呼ぶことがあるが、これらは固有の旋法ではなく、同じヘクサコルドを使う旋法の移調とみなされる。グレゴリオ聖歌のピッチは絶対的には定まっていないため、実際の演奏ではもっとも歌いやすい音域で歌ってよい。
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一部のグレゴリオ聖歌は、旋法ごとに決まった音楽的定式があり、例えば交唱(アンティフォナ)と詩篇詩句の間の詩篇朗誦音(サルム・トーン)などにより、聖歌中の各部分間の移行を滑らかに行えるようになっている。[31]。
すべてのグレゴリオ聖歌がグイードのヘクサコルドや、8つの旋法にぴったりはまるわけではない。例えば、特にドイツ語史料の聖歌には、ヘクサコルド・システムにふくまれない、ホとヘの間で音の高さを揺らす指示のあるネウマがある[32]。初期のグレゴリオ聖歌は、アンブロジオ聖歌や古ローマ聖歌と同じように、旋法を用いていなかった[33]。旋法理論が広まるにつれて、特に12世紀のシトー会の改革によって、グレゴリオ聖歌は次第に旋法にあてはまるように改変された。フィナリスは変更され、旋律の音域は減らされ、メリスマが刈り込まれ、変ロ音が取り除かれ、そして歌詞の繰り返しが除かれた[34]。しかし、このようにして旋法が一貫性を持つようにしようとする試みにもかかわらず、一部の聖歌にはごく単純な旋法の規則までも無視するものがある(特に聖体拝領誦[コンムニオ])。例えば、コンムニオ Circuibo は4つの中世写本に、それぞれ違った旋法を用いて筆写されている